ラマー・オドムの今までとこれから
|10月13日の午後、レイカーズのプレシーズン試合の試合前放送を聞こうと車内でESPNラジオを聞いていると緊急速報が入った 。「ラマー・オドムが売春宿で意識不明の状態で見つかり、現在重体」。わけがわからず耳を疑った。ニュースを伝えるパーソナリティーも戸惑いを隠せないようで「新しい情報が入り次第お伝えします。ラマーの無事を心から祈ります」と心底心配そうな声で言った。私も運転を続けながらもひとりで「うそ… ああ、大丈夫でありますように… ああ」と繰り返した。もちろん私はオドムのことを個人的に知っているわけではない。それでもただ単に元レイカーズの選手が生死を彷徨っているというのとは少しわけが違った。
オドムは12歳で母親を癌で失っている。父親はヘロイン中毒者で疎遠だった。母の亡き後の育ての親となった祖母は2003年に亡くなり、そのちょうど3年後に生後6ヶ月の息子をSIDSでなくした。さらに従兄弟の葬儀のためにNYを訪れている途中、運転手が運転する車がオートバイに追突し、近くにいた少年がはねられて亡くなるという悲劇も体験している。今年の夏には友人がドラッグのオーバードーズで亡くなった。「僕にはいつも死がつきまとっている」と本人が言うのも無理はない。
平穏とは言えない人生を送りながらも「恵まれている」と言い、オドムはいつでも周りの人を気づかった。元チームメイトで現在はGSWの暫定HCであるルーク・ウォルトンは「ラマーは僕が落ち込んだり機嫌が悪かったりすると必ず話しかけてくれて、そのまま嫌な気分で家に帰してはくれなかった。そういうちょっとしたことを毎日、7年間ずっと続けたんだ。こんないいヤツはなかなかいないよ」と語った。オドムが危篤状態であるという報道に次々とNBA選手たちが無事を祈り、記者たちは彼の最新の状況を報告しつつオドムの人間像を伝える記事を書いた。彼がどれだけレイカーズファンやチームメイト、フロントオフィスやスタッフ、さらには何人ものスター選手と関わってきているロサンゼルスのメディアにも愛されているかが今回の件で本当によくわかった。
レイカーズのチャンピオンシップに2度も貢献し、2011年には6th Man of the Yearも受賞したオドムがどうしてこうなってしまったんだろう。そう思う人も少なくないかもしれない。先述の数々の悲劇に加えて2011年のロックアウト明けに行われなかったクリス・ポールのトレードも少なからず引き金になってるように思う。結局当時のコミッショナーによって否認されたあの悪名高きトレードに、つい数ヶ月前にはその活躍を讃えられ賞までもらったオドムも含まれていた。この一連のトレードのバタバタも私は当時ラジオで聞いていた。まだ否認される前のトレードが成立していた数時間の間に、オドムと同じくNY出身のESPNパーソナリティーで当時番組を持っていたスティーブン・A・スミスがなんとオドムに直接電話をかけてリアクションを求めたのだった。電話に出たオドムは当然ながらまだすべてを消化しきれていない様子で「Um」を連発しながらしどろもどろで痛々しく、聞いていて胸が痛んだ。結局トレードはなしになったものの自分がトレードされたという事実にオドムは深く傷つき、そこからNBAのキャリアもぐらついたのではないか。
2009年にリアリティーショーのカーダシアンズの一人であるクローイと結婚するも、オドムのドラッグなどが原因で破局、2013年以来ずっと持っていた離婚届をクローイはついにこの夏提出しに行った。ふたりが結婚を決めたばかりの頃の番組で、カーダシアン家に家族として迎え入れられたオドムは「家族と呼べる存在ができて本当に嬉しい」と涙していたのが印象的だった。なのでふたりの破局を残念に思っていたのだが、今回の件でまだ離婚が正式に成立していなかったことが判明し、さらに先日ふたりは離婚届を撤回したと聞いて嬉しく思った。
今回オドムの安否を心配し、無事を祈る元チームメイトの友人たちを指して「本当の友達ならなんでこうなるまで放っておいたんだ」と言う輩も見かけた。だが周りの話をよく聞いてみると実際には以前から心配をして声をかけていた人たちや手を差し伸べた人たちもたくさんいたことがわかった。それでもオドムは電話を返さなかったり番号を変えたり、または会って話してみるとトレーニングを再開していて調子が良さそうだったりしたようだ。心に想像を絶する痛みを抱えていて、鬱や依存症と戦っている彼の苦しみは計り知れない。そこから立ち直るのは並大抵のことではなく、今回身体に受けたダメージから回復するのに加えてこの先オドムは今まで以上に全力で戦わなければならないだろう。「自分のことを友人と呼びながらも彼を救えなかったのはなぜか」との話について、ESPNラジオのパーソナリティーであるマーセラス・ワイリーが言ったことが胸に響いた。「自分で自分を愛することができないと、誰にも救えない」。たくさんの人に愛されているオドムが自分自信を心から愛することができるように願ってやまない。